【要約】成長戦略会議 国内投資をテコ入れ【髙橋洋一チャンネル#1393】

INDEX(目次)
成長戦略
『高橋洋一チャンネル#1393』の内容を要約
設備投資新税制と成長戦略会議の位置づけ
・日経新聞は、成長戦略会議で「設備投資新税制」が議論され、減価償却費の一括計上による負担軽減案などが候補になっていると報じている
・本来、成長戦略では「官の大型投資」を主力として、それを呼び水に民間投資を増やす構図が想定されている
・しかし現状の議論では、まず手を付けやすい「民間向け税制優遇(加速度償却など)」が前面に出ており、官の投資拡大はまだ本格的に出てきていない
・高橋氏は、官の投資規模の方が本来ははるかに大きく、「官の投資+民の投資」というセットで見るべきだと指摘している
通常の減価償却の仕組みと基本発想
・企業が工場や設備などに投資した場合、その支出を一度に全額経費にせず、耐用年数に応じて毎年少しずつ経費(減価償却費)として計上するのが一般的なルール
・資産は購入した瞬間に「ゼロ」になるわけではなく、たとえば工場なら30年程度かけて徐々に劣化・陳腐化していくという考え方に基づいている
・現実には、資産の「劣化状況」を正確に測ることは難しいため、税法上はあらかじめ定められた一定額・一定割合で帳簿価額を減らしていく仕組みにしている
・税務上は最後に少し「残存価値」を残す形で調整しつつ、毎年規則的に償却していくのが基本パターン
・例として、1億円の設備投資をして耐用年数10年・定率法10%とすると、通常は1年目に1,000万円しか経費計上できない、というイメージになる
一括償却・加速度償却の具体像と効果
・一括償却・加速度償却は、本来なら10年かけて分割計上するような減価償却費を、1年目など早い時期にまとめて計上することを認める仕組み
・イメージとしては「1年目の1,000万円+2年目の1,000万円+3年目の1,000万円分を1年目にまとめて経費にする」といった前倒しを可能にする
・極端な制度設計では、「1年で全額償却」を認めるスーパー加速度償却も理論的にはあり得る(ただし今回そこまで踏み込むかは不明)
・1年目に大きな償却を行うと、その年度の利益が圧縮され、場合によっては赤字に近い水準まで利益を減らすことも可能になる
・赤字になれば法人税は発生しないため、設備投資をした企業にとっては初期のキャッシュフローが非常に楽になる
・ただし、どれだけ前倒ししても「償却総額は投資額を超えない」という大前提は変わらず、トータルでは税負担が減るわけではなく「支払うタイミングが後ろにずれる」制度といえる
耐用年数の現状と実態とのズレ
・税法上の耐用年数は、実物の使用実態に比べて「長め」に設定されていることが多く、結果として償却期間が実情とかみ合っていない
・パソコンの例では、税法上は4〜5年償却とされている一方、実務では2年程度で買い替える企業も多い
・使用実態に合わせると2年程度で価値が大きく落ちているのに、税法上は4〜5年かけてしか経費にできないため、企業側から見ると「実態と合わない」不便な仕組みになっている
・より大型の設備でも、かなり昔から決められた耐用年数がそのまま使われており、多くの場合「実態より長い」設定になっている
・税務当局としては、償却期間を長く取ることで、初期の経費計上を抑え、結果的に税収を多く確保したいという思惑が背景にあると高橋氏は見ている
・加速度償却の導入は、この「耐用年数が実態より長い」という歪みを調整する意味でも有効だと指摘している
法人税負担・投資インセンティブへの影響
・加速度償却を使えば、償却を前倒しすることで利益が圧縮され、当面支払う法人税が軽くなるため、投資に踏み切りやすくなる
・1年目に全額償却を認めるような設計では、うまく使えば「赤字にならない範囲ギリギリ」まで償却を行い、残りは翌年以降に回すといった柔軟な運用も理論上は可能
・こうした制度によって設備投資の採算性が改善されると、「この際、もう一段設備更新を進めよう」という企業行動を促す効果が期待できる
・特に日本では、長期デフレや将来不安から企業が内部留保を貯め込み投資に慎重な傾向があるため、税制面から背中を押す意義は大きい
・一方で、あくまで税負担の時期を動かす措置にとどまるため、官側の大規模投資とセットで運用しなければ、マクロ全体の需要押し上げ効果は限定的になりかねない
制度設計の行方と財務省のスタンス
・今回の設備投資新税制の具体的な中身はまだ明らかになっておらず、高橋氏も「詳しい設計は税制改正法案を見ないと分からない」としている
・感触としては、耐用年数そのものを大きく短縮するのではなく、「3年分を一括」「5年分を一括」といったレベルの前倒しが現実的な線ではないかと見ている
・財務省としても、片山大臣の意向を全面的に受け入れる段階までは来ておらず、「耐用年数はそのままで、一定期間分だけ一括計上を認める」程度で折り合いを探る可能性がある
・こうした加速度償却は、世界的にもよくある税制であり、日本で導入しても国際的には特段奇抜なものではないと解説している
租税特別措置法と補助金の組み合わせ
・税制だけでなく、租税特別措置法を活用すれば「設備投資額に応じた補助金」を組み合わせることも可能である
・具体的には、①償却期間を短縮(加速度償却)しつつ、②投資額に一定割合の補助金を出す、といった二段構えのインセンティブ設計が考えられる
・こうした「税制優遇+補助金」を組み合わせると、設備投資の実質負担は大きく軽くなり、民間企業の投資マインドを一気に引き上げることができる
・ただし、これらはあくまで民間向けの支援であり、政府自身の公共投資拡大とは別レーンの話である点も重要だと指摘している
官の投資・社会的割引率と緊縮財政批判
・高橋氏は、民間向け税制だけでなく、「政府(官)の投資」を大きく増やすことが不可欠だと強調している
・社会的割引率(将来の便益をどの程度割り引いて評価するか)を踏まえれば、今の日本の金利水準では、採算が合う公共投資は数多く存在すると説明
・にもかかわらず、緊縮財政を掲げて政府支出や投資を抑えるのは、「合理的に考えるとアホ」とまで言い切り、強い言葉で批判している
・官の投資がしっかり増え、その上で民間の設備投資を税制・補助金で後押しする形になって初めて、「責任ある積極財政」と呼べると問題提起している
・今回の設備投資新税制がその方向への一歩となるかどうか、今後の制度設計と財務省の姿勢を注視する必要があると締めくくっている
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