【要約】実質賃金0.7%減。心配するな!そのうち上がる【データに基づく】【髙橋洋一チャンネル#1410】

INDEX(目次)
実質賃金0.7% 減
『高橋洋一チャンネル#1410』の内容を要約
10月の実質賃金統計の結果と期間
・厚生労働省の毎月勤労統計によれば、2025年10月の実質賃金は前年同月比0.7%減
・実質賃金のマイナスは25年1月から10ヶ月連続で続いており、見出しだけ見ると「賃金が物価に追いついていない」「家計が苦しくなっている」という印象を与える
・ただし、これはあくまで「物価で割り戻した賃金(実質)」の話であり、名目賃金そのものは増加している
名目賃金・所定内給与の内訳と伸び率
・1人当たりの名目賃金(現金給与総額)は30万0141円で、前年同月比2.6%増
・基本給に当たる所定内給与は27万1663円で、こちらも2.6%増と同じ伸び
・つまり、企業が支払っている賃金総額やベース給自体は、統計上着実に増加している
・この背景には、2025年春闘を含め、2年連続で比較的高い賃上げ率が実現したことがあると解説されている
「給料は増えているのに実質賃金がマイナス」という構図
・見出しでは「実質賃金が10ヶ月連続マイナス」と強調されるが、中身を見ると、名目賃金は増えている
・問題は、物価上昇率の方が名目賃金の伸びよりやや高いため、割り算の結果として実質賃金がマイナスになるという構図
・つまり「賃金が下がっている」というより、「物価の伸びに追いつききれていない」という意味合いが強い
実質賃金 -0.7%はどう計算されているか
・今回の**-0.7%**という数字は、名目賃金2.6%増に対して、**インフレ率3.4%を当てはめて算出
・単純化すると、
実質賃金の伸び ≒ 名目賃金の伸び(+2.6%)- 物価上昇率(+3.4%)= -0.8%前後
・公表値では端数処理の関係で-0.7%**となっているとみられるが、基本は「物価が賃金より約0.7〜0.8ポイント高く上がった」という意味
一般の消費者物価指数(CPI)3.0%とのズレ
・ニュース等でよく出る消費者物価指数(CPI)総合は、10月分で3.0%上昇
・もしこのCPI総合3.0%を用いて計算すると、
2.6%(名目賃金)- 3.0%(CPI)= 約0.4%減
・つまり、同じ賃金・物価の実態でも、どの物価指数を使うかによって**「-0.7%」にも「-0.4%」にもなり得る**ことになる
厚労省が使う特殊な物価指数:家賃除外CPI
・厚労省の毎月勤労統計では、古い慣行に基づき、CPI総合ではなく「家賃を除いた指数」を用いて実質賃金を計算
・家賃は変動が小さい項目であり、これを除くと、変動の大きいエネルギーや食料等のウェイトが相対的に高まり、インフレ率が高めに出やすい
・その結果、同じ賃金伸び**2.6%**でも、物価3.2〜3.4%とみなされ、実質賃金のマイナス幅が大きく見える
・高橋氏は、海外では通常CPI総合を用いるため、「日本のやり方は国際標準からすると特殊」と批判
新しい統計シリーズの導入と「二本立て」の状態
・こうした批判を受け、最近になってCPI総合を使う新しい実質賃金の系列も作られ、「旧・家賃除外」と「新・CPI総合」の二本立て状態になっている
・ただし、マスコミが記事に使うのは、多くの場合、よりマイナス幅が大きく出る家賃除外ベースの数字
・そのため、世の中には「実質賃金がずっと悪い」というイメージが強く残りやすい構造になっている
賃金と物価の時間差:なぜ先に物価が上がりやすいのか
・高橋氏は、「短期的には物価の方が先に上がり、賃金は遅れて追いついてくる」という構造を説明
・時給で決まるアルバイト・パート賃金は、市場環境に応じて比較的すぐに上がる
・一方、正社員の賃金は、年1回の春闘や定期昇給などで一括改定されるため、物価上昇に対して時間差が発生
・このタイムラグが、「一時的に物価上昇率>賃金上昇率」となり、実質賃金マイナスがニュースで強調される背景になっている
長期的には「賃金>物価」:生産性向上が生む+1%〜+2%
・賃金決定では、物価上昇分に加えて、企業の生産性向上(機械化・IT投資・業務効率化)の成果が上乗せされる
・歴史的には、インフレ率+約1%程度が、先進国における賃金上昇率の「標準的な着地点」とされる
・高度経済成長期の日本のように、生産性向上が著しい時期には、「インフレ率+2%」程度まで賃金が上がった例もある
・現在の日本ではそこまでの高成長は見込みにくいが、それでも中長期ではインフレ率をやや上回る賃金上昇に落ち着くと見られる
1991年以降の実質賃金のパターンとショック要因
・1991年以降の長期データをみると、実質賃金は「ややプラスの局面」と「ショックで落ち込む局面」を繰り返している
・代表例として、リーマンショックなどの世界的危機が発生すると、物価・雇用・賃金に大きな下押しが生じ、一時的に実質賃金が大きく悪化
・しかし、その後の景気回復や政策対応により、再びプラス圏に近づいていく
・このように、実質賃金は一直線に悪化し続けるのではなく、景気ショックと回復の波の中で上下してきた
今後半年程度の見通し:エネルギー価格低下でプラス転換か
・足元では、国際的にエネルギー価格がピークアウトし、日本のCPI総合でもエネルギー関連の押し下げ効果が出始めている
・物価上昇率が3%台から徐々に低下していけば、名目賃金2.6%前後の伸びとのギャップが縮まり、実質賃金がプラスに転じる可能性が高い
・高橋氏は、「半年以内には実質がプラスにひっくり返るだろう」と見ており、一度プラスに入れば、その後も緩やかなプラス域を維持しやすいと説明
政策課題としての位置づけ:急いで騒ぐ問題ではない
・こうしたメカニズムから、高橋氏は実質賃金問題を「時間が経てば自然に賃金>物価に収れんしやすいタイプの現象」と位置づけ
・したがって、政策的には「今すぐ特別な対策を打たないと破綻する」といった類のものではなく、
①景気を腰折れさせないマクロ政策
②生産性向上につながる投資環境整備
を淡々と進めることの方が重要だと指摘
・「実質賃金がずっとマイナスのまま続く」という前提自体が、歴史データから見て非現実的だと強調する
メディア・ワイドショー報道へのコメント
・テレビのワイドショーなどは、野菜価格など一部の値上がりをセンセーショナルに取り上げ、「物価高」を強調
・しかし、エネルギー価格の低下や、CPI総合の鈍化傾向など、全体の動きを踏まえた構図はあまり説明されない
・また、家賃除外指数など「マイナスが大きく見える数字」を好んで引用し、不安を煽る方向に偏りがち
・高橋氏は「数ヶ月経てば別の話題に移り、以前の『危機』報道は忘れられてしまう」とメディアの姿勢を批判し、
新しいCPIベースの実質賃金も踏まえれば「そこまで深刻に心配する必要はない」と結んでいる
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